2008-05-30

イルカに似てる

昨日、ネットで調べ物をしていた。こういうときによくあるのが、ミイラ取りがミイラ、というか、調べ物が調べ物を呼び、最終的には「あれ?最初は何を調べようとしてたんだっけ?」となることだ。

そういうわけで、特に理由もなく、トールキンの「指輪物語」に関する Wikipedia のエントリをつらつらと読んでいた。そして、映画化された「ロード・オブ・リング」(全3部のうち第1部。第1部だけ、映画の邦題に副題がないが、小説の副題は「旅の仲間」である)の字幕に関して大騒動があったということを知った。映画「ロード・オブ・リング」は、どこかへ行く国際線(たぶん SQ)の機内で見た記憶があるのだが、原作を読んで筋を知っていることもあり、字幕には全く注意していなかった。

その大騒動というのは、原作に忠実に作られている映画を、日本語字幕の誤訳が台無しにしているという指摘がネットで盛り上がり、最終的には映画監督が字幕の翻訳者を第2部以降で交代させるよう日本の配給元に指示した、というもの。確かに当時、「ロード・オブ・リング」を映画館に見に行った知人(たった2名ですが)に感想を聞いたところ、「なんか暗い話だった」「筋が難しすぎてわかんなかった」と言っていた。彼女たちは字幕版を見ているし、英語は聞き取れてないはずだから、字幕の誤訳の影響があったのかもしれない。「指輪物語」は超面白い話なのに。。。この騒動の結果、映画が DVD になるときには第1部の字幕も訂正されたそうなので、現在は誤訳を確かめることはできない。(だから、私が機内でみたやつの字幕も、既に訂正されていたのかもしれない。)

で、今回の話は、2つの映画「ロード・オブ・リング」と「グラン・ブルー」の字幕翻訳者が同一人物であることに気づいたということ。

実は「グラン・ブルー」の日本語字幕には致命的な誤訳が1ヶ所ある。アルゼンチンの高地にある凍った湖で Jacques が潜ったあと、コーヒーを持ってきてくれた Johanna と初めて話をするシーンで、
Jacques:「どこかで会った?」
Johanna:「さっき、小屋の前で」
Jacques:(くすくす笑いながら彼女の顔をみつめて)「イルカに似てる
Johanna:(あっけにとられる)
という(たぶん)有名なシーンだ。「」の中に入っているのが字幕に書かれていたこと。私の記憶によればこんな感じだった。

確かに Johanna 役の Rosanna Arquette の顔はイルカに似てるといえなくもないし、物語全体を通してイルカは重要な役割を果たす。しかし、ここで Jacques は「イルカに似てる」と言ってないのだ。撮影時の使用言語である英語版でも、それを同じ役者たちが自ら吹き替えた仏語版でも、上記の3つのせりふは
Jacques:「僕を知ってるでしょ?」
Johanna:「さっき、小屋の前で」
Jacques:(くすくす笑いながら彼女の顔をみつめて)「この湖の中で
Johanna:(意味がわからずぽかんとする)
と言っているのだ!

ちなみに、凍った湖の中で Jacques が見たものはイルカではなく、結氷面に溜まった空気とか、暗闇とか、医学的な測定器具とかである。後で Johanna が Jacques の心電図のテープを抱きしめるシーンがあることから推し量ると、凍った湖の中での医学的な「測定結果を見てたでしょ(なんだか恥ずかしいなあ。くすくす)」くらいの意味じゃないのかな。

「イルカに似てる」というせりふ(字幕)は、日本で見た観客にとって、この映画のなかでもっとも印象に残るせりふになっている場合すらあるようで、まったく罪深い翻訳者だ。まあ、物語全体を通してみれば、 Johanna とイルカはぜんぜん同類扱いされておらず、むしろ対立するものとして描かれており、この場面でも「イルカに似てる」などという、わけのわからんせりふはありえないのだが。

結論、この翻訳者の字幕は映画をぶち壊している。字幕を無視して映画を鑑賞する(無理?)か、別の翻訳者の吹き替え版があるならそっちを見たほうがいい。

あ、映画「スターウォーズ」で dark side を「暗黒面」という語に訳したのも、まさにこの翻訳者。個人的には、これもひどい誤訳だと思う。「ジェダイの騎士アナキン・スカイウォーカーは子供を作ったために暗黒面に落ちた」って何それ(そういう字幕は実際にないけど、例文を作ってみたのだ)。 Force はフォースのまんまなんだから、 dark side もダークサイドでよかったんじゃないかなあ。字数の制約があるのはわかってるけど、漢字よりカタカナのほうがパッと読めるし。暗黒面?あんかけ面?白湯にんにく面?そういえば、現代の北京語では麺は面と書く。私は落ちるなら担々面がいいな。

May Fish be with you.
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