2008-05-30

この blog の筆者近影(右側の段の下の方にある、ロクハンのかぶりを着てる人の写真)の手前に、奇妙な生物が写っているのに気づいている方がいるだろうか?

コノハウミウシ (Phylliroe bucephalum) という名前の、一生を浮遊生活で過ごす後鰓類(ウミウシ)の仲間だ。パッと見た感じでは、ヒラメかカレイの幼魚に見えるがそうではない。

上に書いた Phylliroe bucephalum というのはこの生物の学名で、学名はその始祖 Carl von Linné 以来の生物学の分野の約束事として、ラテン語で付けるということになっている。Phylliroe が属名、bucephalum が種小名。属名の方は良く似た生物いくつかに共通で分類上の位置を表し、種小名の方はその生物種にだけ特に付けた名前になっている(「2名法」と言う。要するに、Ito hisashi と書いたとき、Ito の方は自分の家族全員に共通で、hisashi は私だけ、ってな命名法)。

bucephalum は、bu + cephalum である。意味は「雄牛の」+「頭」(bull という英語に bu があるから「雄牛の」の方は、まあ、分かるかな)。このウミウシに、雄牛の角のような2本の突起があることに由来する種小名である。

ここで突然だが、狂牛病。正確には牛海綿状脳症とかいうのだが、一般には BSE と言われているよね。BSE を辞書で引くと、Bovine Spongiform Encephalopathy の略であると分かる。bovine は beef に似てるから「牛の」だし、spongiform はそのまんま「海綿状」(スポンジ状)である。残る encephalopathy、あ、ここにも cephal「頭」 が!!

実際、en + cephalo は「頭の中身の」、つまり、「脳の」の意味であり、pathy は病気を表す(他の単語だと、たとえば psychopath、発音はサイコパス、意味は精神異常者だけど、語尾に path がついてる)ので、この語全体で「脳症」という意味になるのだ。

うむうむ。生物の学名を知ると、英単語の知識も増えるねえ、、、って、知っててどうする?って単語であるのは確かだが。

今回の記事は、上で書いたことを踏まえて。インドネシア語(マレー語)で、「頭」のことを kepala (発音はクパラ)というのだが、これと、ラテン語の cephal(um|o) などは同じで、インドあたりの言葉が語源じゃないのかな?という疑問をどこかに書いておきたくて。

インドネシアの文部科学省みたいなところが出版している、インドネシア語の国語大辞典 (KBBI: Kamus Besar Bahasa Indonesia) は持っているのだが、この辞書の最大の欠点が語源の記述が一切ないという点なのだ。まあ、インドネシアはただでさえばらばらになりそうな国なので、ある一つの単語の起源が(母語人口が最も多い)ジャワ語であるとか、(多数派であるイスラムの言葉である)アラビア語であるとかいちいち書かない方が少数派を刺激しなくていいという政治的判断なのだと思うが、他の言語を知っている学習者にはちょっと不親切である。

一方、英語の whale の語源の考察の時(2008/5/23のエントリ参照)にも感じたのだが、ヨーロッパ人は、自分の言語の、ある一つの単語の語源をヨーロッパ内かせいぜいギリシャ、ラテンにしか求めないという傾向がある。サンスクリットが語源だなんて、プライドが許さないのかも。

というわけで、自分では解決できなそうな疑問なんだけど、でも、インド起源はたくさんありそうなんだよね。ヨーロッパの諸言語(ギリシャ語、ラテン語を含む)も、インドネシア語も(タイ語と共通の語に限れば、サンスクリット起源だ、ってすぐ分かるんだけどね。rasa とか roda とか bahasa とか、その他、たくさん)。誰か、言語学の中の人、しっかり研究してくださーい。

最後に、蛇足。カラッパという名前のカニがいるのは、ダイバーなら知ってるかもしれない。マルソデカラッパとか、メガネカラッパとか、トラフカラッパとか。カラッパは、インドネシア語(マレー語)の kelapa 「ヤシ」に由来するって。形が椰子の実みたいだから。知ってた?

kepala と kelapa 似てるけど、間違えないでね。って、だれもインドネシア語(マレー語)勉強してないって、、、

インドネシアのなぞなぞ:
Apa bedanya kepala dan kelapa? (頭と椰子は何が違うの?)
Kepala botak kelapa batok. (頭には禿、椰子には殻。)
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