2008-05-23

「白鯨」の whale の語源に異議あり

「嵐が丘」(2008/5/21のエントリ)について書いたので、Wikipedia の関連項目を読んでいたら、「嵐が丘」、「白鯨」、「リア王」を英語文学の三大悲劇ということがあるらしい。実は「リア王」は読んでないのだが、「白鯨」は読んだ事がある。

中学、高校の頃、世界の名作といわれるものを全部読んでやろうと思い、どういう系統の話とかそういうのを無視していろいろ読んだ。で、正直に言って、「白鯨」はつまらなくて、途中で投げ出してしまった。このころ読むのを挫折した、いわゆる「世界の名作」は数少ないので(ひょっとするとこれだけかも)、苦い思い出になっていた。

ダイビングに狂い始めて、小笠原に何度も行くようになったころ、「白鯨」の舞台が実は小笠原近海である、と知り、がぜん興味が湧いた。父島の民宿に泊まった時、置いてあった「白鯨」の文庫本を一晩で読み切った。面白かった。

読書も、モティベーション(動機付け)が大切。

で、今回の話題は「白鯨」なんだけど、英語の whale の語源に関して。 Herman Melville "Moby-Dick" (原著)では第1章に入る前に、 Etymology (語源学)の節を設けて説明している。それによると、英語の whale の語源は北欧語 hval であり、「ぐるぐる回る物」という意味であるとなっている。車輪の wheel とも同根とされている。 Melville だけに頼るのもなんなので、 Oxford 語源辞典というのも見てみたのだが、同じような説明になっていた。

これは本当なの?なんで、鯨が「ぐるぐる回る物」なの?

実はタイ語では鯨のことをプラーワーン ปลาวาฬ という。語源ははっきりしていて、パーリ語である。これは綴りにパーリ語からの借用語にしか用いない字(ローチュラー ฬ )があるために明らかである。で、ワーン วาฬ のもとの、パーリ語やサンスクリット語で、ワーラ、ウャアラという単語の意味は「獰猛な」「凶暴な」である。だから、ワーンという語を借用しているタイ語では、例えばサッタワワーン สัตววาฬ は「猛獣」を意味する(あまり使わない語かも)。ここで、サット สัตว์ はサンスクリット語ではサッタヴァで「生き物」の意(ほら、仏教用語の菩薩は「菩提薩埵」の省略形で、ここにでてきた「薩埵」がサッタヴァなんだよ、って説明は、般若心経を覚えてる人にはかすかにわかるかなぁ。蛇足だが、「菩提」は「悟った」の意)。プラー ปลา は「魚」の意だから、プラーワーンはさしずめ「猛魚」となり、まさに、鯨にふさわしい単語である。

で、英語の whale に戻るが、これの語源、インドに求めてはいけないのだろうか?英語もサンスクリット語も大きくくくってしまえば、印欧語族である。ウャアラと whale とそっくりだと思うのだが。というわけで、whale の語源はサンスクリットで意味は「猛魚」という説に一票。

あ、「白鯨」をまだ読んでいない人で、スターバックス(コーヒー屋)のファンはいないかな?スターバックスは「白鯨」の登場人物の名前だよ。って、「白鯨」を読むモティベーションにならないかな?
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