2008-08-11

女性隣接フェチ

一昨日から読んだ本の記事ばかり投稿しているが、今日も。だって、出かける気にならないんだもん。

奥田英朗の精神科医・伊良部シリーズ「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」「町長選挙」を続けて読んだ。面白い。伊良部医師の破天荒な人柄の設定が、小説全体を引っ張って魅力あるものにしている。全編がハッピーエンドなのも暗くなくて良いね。

でも、本当にこういう医師が居たとして、患者は治るかというと、無理。現実は、こんなに軽いもんじゃない。でも、ま、そこは小説だから。

「イン・ザ・プール」に収録の「いてもたっても」という短編。たばこの火を消したかどうかが気になり、自宅から出かけるときに何回も確認してしまうという、強迫神経症の患者が登場する。この患者の症状は伊良部の診察(?)を受けたためますます悪化していき、とうとう。。。という話。

この短編を読んで、ある人のことを思い出した。今回の記事は、その人をネタにしよう。

かなり昔の8月に、アメリカの Seattle のワシントン大学 (University of Washington: UW) に、男2人で行ったことがある。用事は UW での会合に出席するというものだった。夏休みで帰省した学生のツインの部屋が空いているということで学生寮が安宿になった。食事も学内で。もし外に食べに行こうと思ったら車が必要だし。

というわけで、5日間ほど、もう1人の男と UW のキャンパスから一歩も出ないという生活を送った。キャンパスは美しくて広いので居心地は良かった。

しかし、私の連れのこの男が、2つの困った性癖を持っていた。

1つは強迫神経症。彼は寮の部屋からなかなか出かけることができない。2人ともたばこは吸わないから火の始末を気にするわけではないのだが、「ドアをロックしたかどうか」「電気を消したかどうか」「水を出しっぱなしにしていないか」などが気になるらしい。ドアがロックされているかどうかは、外からドアを開けてみようとしてみれば分かることだから、と思うのは精神が健康な人の発想。病んでいる人は、外からドアのノブをひねって押して開かなくても、それを試みたことによりロックが外れ、次に同じ事をしたときにはドアが開くのではないか、などと恐れるのだ。もちろん、彼が先に部屋を離れ、ルームメイトの私が後から戸締りをして追いかける、というのは論外だ。私のようないいかげんなやつは、電気をつけっぱなし、シャワーを出しっぱなしにするだろうし、トイレが壊れて水が流れっぱなしだったとしてもちっとも気づかず、ドアもロックしないで平然と出かけるに違いないのだから。

というわけで、肝心の会合が始まる時刻より1時間は余裕をもって、私が寮の部屋を先に離れ、戸締りはいつも彼に任せることにした。ま、私は暇なのは大好きなので、何もしない1時間はまったく苦にはならなかったが。

もう1つの困った症状は「女性隣接フェチ」。DSM に記載されているかどうかとか、そんな名前が付いているのかどうかは知らない。たった今、この記事を書くために私が命名。

いつでもどこでも、若くても年寄りでも、美人でもそれほどでなくても、人種も国籍も問わない。とにかく、女性が一人で座っていると隣の席に座り、一生懸命話しかけずにはいられない、という症状。話しかけて相手が答えなくてもそんなのは気にしない、隣に座り続ける。もし、女性に連れが現れると、彼はふらふらっと席を立ち、他の「一人で座っている女性」を探しに行く。まあ、ある程度は隣に座る女性を選んでいたのかもしれない、私には隣の女性のタイプに一貫性が見いだせなかったが彼にだって好みがあるはずだから。

というわけで、男2人で Seattle に行ったはずなのに、会合の部屋でも、食堂でも、私は一人ぼっちだった。一緒に食堂に入ったとしても、彼は私からふらふらっと離れて、どっかの女性の隣の席に行ってしまうのだ。

滞在中に、この2つの症状が重なって出現した。

その日だけは特別だった。午後8時という遅い時間から UW のキャンパスの端にある大講堂で会合が予定されていた。もちろん、私も彼も出席するつもりだ。

夕食を食べ、寮の部屋に戻ると、彼はもう戻ってきていた。「いとーさん、お願いがあるんですが」。さて、何だろう?「韓国から来た Kさんを大講堂までエスコートしてくださいませんか?」

なんじゃそりゃ。Kさんって誰?男?女?

彼の話はこうだ。どこぞで隣に座った Kさんが午後8時からの会合に出たがっている。彼女はここから少し奥の女子寮に宿泊している。大講堂は遠いし、場所が分かりにくいし、夜だから危険があるかもしれない。だから、エスコートしてあげたほうがいい。

そんなの、私の知ったことではない。キャンパス内は夜間でも照明がしっかりしているから危険は昼間と同程度。場所が分かりにくいっていったって、要所要所に地図は完備している。それに、私だって大講堂へ行くのは初めてだ。だいたい、おまえが約束したんだったら、自分でエスコートすればいいだろ、と言ってみた。

それに対する彼の返答。いまからだと戸締りに時間がかかって、迎えに行くと約束した時間に遅れるんじゃないかと心配で、かといって、戸締りをいいかげんにするわけにはいかない、と。

もう、勝手にせい。

というわけで、私がエスコートして大講堂まで。 Kさんとはほとんど話をしなかった。彼女自身、エスコートなんかしてくれなくていい、って思ってた。

ちなみに、今、彼は某有名国立大学の教授になっている。治ってるのかなあ。こういうの治るわけないよなあ。

(注意:今回の記事は、いちおうフィクションです。)
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