2008-11-18

アンボイナ


種小名(学名に関してはこのエントリに書いた)に amboinensis と付いた生物は多い。

海の動物に限っても
Apogon amboinensis Bleeker, 1853
Pteroidichthys amboinensis Bleeker, 1856
Canthigaster amboinensis (Bleeker, 1865)
Lysmata amboinensis De Man, 1888
Periclimenes amboinensis (De Man, 1888)
Thor amboinensis (De Man, 1888)
など (それぞれの和名はネットで調べればすぐ分かるので、省略)。

インドネシアは長い間、オランダの植民地だった。 Ambon は、オランダの支配が及ぶ以前はポルトガルやイギリスの、クローブ(丁字)貿易の重要拠点として栄えた港町だ。上に例示した生物たちは、インドネシアの「スパイス・アイランド」の、この港町と縁がある。

Ambon は、古くは Amboina, Amboyna あるいは Ambwan とも綴った。町の名前に変更があったわけではなく、現地語の発音を誰が聞き取るかで綴りが揺れただけのこと。ちなみに、Amboina の oi の部分は「ワ」に近い音を表記するのが本来の意図だったはずで、 Amboyna はそれを理解しない人が読み間違ったのの固定化。

1623年には、この町のイギリス商館をオランダが襲い、商館員を全員殺害するという Amboyna 事件があった。後には、オランダの「東インド会社」 (VOC) の拠点も置かれた。つまり、ヨーロッパからこの町へのアクセスは、昔は、非常に良かったといえる。そんなわけで、かつての Ambon にはヨーロッパ人の生物学者が長期滞在して、ヨーロッパ人にとって「新発見」の動植物に次々に学名を付けていった。

命名に際し、学者たちは "originating in Amboina" という意味の amboinensis を乱発した(中には少数だが、別綴採用の amboynensis もある)。しかし、名前がそうだからといって、 Ambon にしか居ないわけではない。ちなみに1900年代に入ってからは、命名の際に Amboina などの綴りを使わず、現在と同じ綴りの Ambon を使い ambonensis とするようになった。だから、これらの違いは誤植ではない。アンボイナという名の、銛が危険な巻貝が居るが、これは Amboyna に由来する。

上の写真は Ambon で撮影した Chromis amboinensis (Bleeker, 1873) の若い個体 (at "Laha Beach", P.Ambon, Maluku, Indonesia. 29 Oct 2008)。このスズメダイは Ambon の海に、実際、とてもたくさん居た。しかし、日本では今のところ、西表島と父島列島でしか確認されていない。ただし、小笠原では他の島にも居るはず。一方、西表島の方は、場所が近くとも、与那国島や石垣島では確認されていないと聞いた。

小笠原では、 O.M. さんの発見。「なんか変なスズメダイが居る」と、まず写真を撮って学者さんに送付。「おっ、コレは!」という返事があったので、採取してクール宅急便で送付(その際、品名は "魚類")。鑑定結果は「Chromis amboinensis でした。小笠原では未記録でしたっけ?」だった。私は、この一部始終を横でリアルタイムで見ていた。面白かった。いったん、目に付き始めると、父島近辺ではあちこちに居る。それほど珍しくない。

8月に西表島に潜りに行ったとき、現地サービスの K.Y. さんがブリーフィングで「アンボンクロミスという、日本では西表にしか生息しないのが居ます」と仰った。その場で口出し。「小笠原にも居ます」と。

こういうの結構、好き。せっかくあっちこっち潜ってるんだから、情報は伝達しなきゃね。

蛇足:種小名が amboensis と名づけられた生物もある。これは Ambon とは関係なくて、ambo。南アフリカの地域(あるいはエスニックグループ)の名前 ovanbo (owanbo とも綴る)の古い綴りに由来。紛らわしい?
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