2009-01-03

赤黒ゲーム

最近は流行ってないが、20年くらい前には「自己啓発セミナー」というのがいろいろあった。

大学生が仕送りの学費をこれの参加費として注ぎ込んでしまったとか、女の子とデートだと思い込んで待ち合わせ場所にいったら「プレセミナー」に連れて行かれたとか、私が知る限りでもいろんなトラブルがあった。企業の研修に使われ新入社員が強制的に参加させられたとか、封印されていた過去の忌まわしい記憶が全員の前で強制的に暴露され精神病になったとかいう話も聞いた。

私の場合は当時、1ヶ月分のバイト代が盗難に遭い食うに困って、バイト先で「ねえねえ今月はピンチなんだ。来月どうにかするからおごって」と言っていたら同僚にプレセミナーに連れて行かれた。「Basic コースの代金11万円は貸す、セミナーに参加して価値が無かったら返してくれなくていい」とまで言われ、通いで3日間の Basic コースに参加したのだ。

自己啓発セミナーに関する詳しい情報と、その問題点に関しては Large Group Awareness Training のページで充分。本当にすばらしいページだ。

「ベトナム戦争に従軍し精神を病んだ人を社会復帰させるためのカウンセリングの手法を健常者に応用したのが自己啓発セミナー」というのを今まで信じていたが、上述のページによるとそれはフォークロアであり、真相は「マルチ商法の手口」なんだそうだ。そうだよね、私のように Basic コースだけで「セミナーの金儲け主義が腹立つ。内容も値段に比べてつまんない」と止めてしまう人は実際に少数派で、ほとんど全員がより高額な、泊まり込みの中級コースに引き続き参加したようだから。

昨日は、ある占いに関する記事を書いたが、一度はまると抜け出すのが困難なものは世の中に多い。引っかかる側の意志が強いとか弱いとか頭がいいとか悪いとかの問題ではなく、騙す側が金儲けに関してかなり巧妙な手口を使っているのだ。

上述のページにも記載がある「赤黒ゲーム」は、私が参加したときにもセミナー2日目のプログラムに含まれていた:

--- 赤黒ゲームの説明

ルール
◎ 参加者全員(約100名)は半数ずつの A チーム、 B チームに分かれる。ゲーム開始前に(必要ならばゲーム途中でも)、チームごとの別室で、戦略を議論するための短い時間が与えられる
◎ ゲームは全部で6回戦。1回の対戦はそれぞれのチームが赤または黒のカードを1枚出すことで行われ、その組合せでチームの得点が決まる(ただし、3回戦目の得点は2倍に、6回戦目の得点は3倍に計算する):
赤赤のとき、両者とも-3点
赤黒のとき、赤を出したチームは+5点、黒を出したチームは-5点
黒黒のとき、両者とも+3点

達成すべきゴール
蓄積した合計点を最大にして勝つこと

--- 説明おわり

こんなゲームは、ルールと達成すべきゴールの説明を受けた瞬間に「両チームとも全部黒にすりゃいいじゃん」って分かるくらい底が浅い。実際、私がこのゲームをやったときには、他方のチームにもそう分かってる人が1人だけ居た、とあとで聞いた。だから、結果的に両チーム全部黒となった。担当のトレーナー(セミナーの司会者/進行係)は「こんなにうまくいったのはいままでで初めてです」と言ってたけど、本当かなあ。簡単すぎるよ。

いまから考えると、私にはセミナーのマルチ商法的側面がうすうす分かっていたから、「全部黒」が要求されていると分かったんだろう。なにしろ、マルチ商法(赤しか出さないチーム)を信じて引っかかる(黒ばかり出す)人を養成してるセミナーなのだから。他の参加者には、「いままでそういう『両者が勝つ』という考え方をしたことがありませんでした。ありがとうございます」と戦略提案者の私があとで個人的に感謝されたり、「セミナーで行われたゲームの中で赤黒ゲームが一番価値があった」という人がいたり。なんだかなあ、そんなもんなの?と、当時も思った。

赤黒ゲームのチーム分けの際には、自己啓発セミナーの運営側も「なるべくうまくいく」ように、分かりそうな人をAチーム、Bチームに分散させるようにしている、というのもあとで知った。今ごろ言ってもしょうがないが、私をそう認めていただけたようで、たいへんに光栄です。(笑)

まあ、Basic セミナー参加費と、プレセミナーに連れて行かれた時の夕飯一食分とが無料だったにしては、暇つぶしになった。でも、そもそも商品の「価値」というものは「価値がある」「価値がない」の2通りだけではなく、「払うお金に見合ってると思えるかどうか」じゃないのかな?

私は赤も黒も出さない。こんな「価値がないにほぼ等しい」ゲームへの参加自体、拒否だね。
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