2009-01-12

الزِئْبَق



『astronomy ではダメだが astrology なら食える』と言った人がいたらしい。私はいつも、天文学と占星術に相当する英単語は逆なんじゃないかと混乱する。日本語の「豆腐」と「納豆」という単語もそんな感じだが、混乱はしてないけどね。

今回の記事のネタは、タイ語の何曜とか何月とかいう単語が、天文学 (占星術?) と関係があるという話。

これだけではよく知られている話なのでわざわざ取り上げるほどの内容ではない。そこでおまけとして、インドネシア語(マレーシア語)の何曜という単語の由来も書いてしまうことにする。

必要なフォントがインストールされてない環境では、今回の記事はまったく読めない。でも、私には書けちゃったので気にしないことにする。

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タイ語の曜名は、日本語などと同様、太陽系の星名に由来する。タイ語の星名の語源はサンスクリット語だ。

下は、タイ語 音写表記のサンスクリット語 日本語 という形のリストだ。

อาทิตย์ āditya 太陽
จันทร์ candra 月
อังคาร aṃgāra 火星
พุธ budha 水星
พฤหัส bṛhaspati 木星
ศุกร์ śukra 金星
เสาร์ saura 土星

天体としての太陽ではなく日曜日であることをはっきり示したいなら、「一日」を表す วัน の修飾語として วันอาทิตย์ のように用いる。他の曜日についても同様だ。

私にはタイ語の曜名を直接覚えるより、サンスクリット語で覚えてしまったほうが早いように思える。木星だけ 主 (人) を意味する語尾 -pati がカットされているが、あとはほぼ機械的に変換できる。もちろん、タイ語とサンスクリット語の綴り字の対応規則を知っているのが前提だ。

サンスクリット語では、それぞれの天体に「意味付け」があり、各単語はその意味でも用いられる。

太陽 太陽神 ya の子
月 光り輝くもの
火星 幸せ、繁栄、戦い、焼き尽くすもの
水星 賢い、理解力のある (仏陀 buddha と同根)
木星 祈祷の主、神々の師匠
金星 輝く、明るい、悪魔の師匠
土星 ゆっくり動くもの

なんだか占いじみてきた…でしょ。

でも、そもそも日本語(中国語)で惑星の名に火、水、木、金、土と付いているのはそれらのエレメントで世界がすべて成立しているとする五行思想の影響であり、それは占いみたいなものだ。

また、まだ日本に七曜の概念が無い大昔に1週間を7日とする方法が輸入されたのだが、そのときは7日周期で1日を太陽系の1星と結びつける占星術としてだった。そういうわけで、日本では曜名として星の日本名が流用され、日曜、月曜、火曜、水曜、木曜、金曜、土曜となっているのだ。(参考:Wikipedia 日本語版「曜日」の項)

占星術と五行思想のミックス…。占いって重要みたいだ。

ちなみに、 Wikipedia の上記ページによれば、曜の順「日月火水木金土」は、星を当時の定説 (プトレマイオス等が提唱) での『遠い』順に「土木火日金水月」に並べた上で1時間ごとに次の星に動く (最後の次は最初に戻る) と考えれば、「土」の24時間後が「日」、「日」の24時間後が「月」、…となるから、だそうだ。(汗)

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タイ語で、何月、という月名は、占星術で出てくる黄道十二宮に由来する。語源は、やはりサンスクリット語。

下は、タイ語の月名 星座名 音写表記のサンスクリット語 日本語の月名 星座名 中国語(?)の星座名  という形のリストだ。

เมษา ราศีเมษ meṣa 4月 おひつじ座 白羊宮
พฤษภา ราศีพฤษภ vṛṣan 5月 おうし座 金牛宮
มิถุนา ราศีเมถุน mithuna 6月 ふたご座 双子宮
กรกฎา ราศีกรกฎ karkaṭa 7月 かに座 巨蟹宮
สิงหา ราศีสิงห์ siṃha 8月 しし座 獅子宮
กันยา ราศีกันย์ kanyā 9月 おとめ座 室女宮
ตุลา ราศีตุลย์ tulā 10月 てんびん座 天秤宮
พฤศจิกา ราศีพิจิก vṛścika 11月 さそり座 天蠍宮
ธันวา ราศีธนู dhanvin 12月 いて座 人馬宮
มกรา ราศีมังกร makara 1月 やぎ座 摩羯宮
กุมภา ราศีกุมภ์ kumbha 2月 みずがめ座 宝瓶宮
มีนา ราศีมีน mīna 3月 うお座 双魚宮

ราศี は星座という意味だ。

月名であることをはっきりさせたいのなら、その月の日数を30日と比べ 大きい / 等しい / 小さい に応じて語尾に คม / ยน / พันธ์ を付ければ良い。例えば1月なら มกราคม だ。また、例えば、占星術でいうおひつじ座の期間 (タイでは流派によって3月21日〜4月19日だったり4月14日〜5月14日だったりするらしい) と4月1日〜30日の期間とは完全には一致しないが、タイ語では4月を表すのにおひつじ座に由来する単語を使ってしまっている。混乱しないように注意しよう。(笑)

月名もタイ語でいきなり覚えるのは大変すぎる。サンスクリット語の綴り字とはほとんど対応しているので、やはり、サンスクリット語のほうから覚えた方がいいと思う。急がば回れ。でも、タイ語の単語が仮に正しく綴れても、一字再読とかルールがいろいろあるから、発音が出来るかどうかはまた別問題で難しいんだが。

中国語での「摩羯」 (まかつ) は makara の音写だ。もともと makara はヤギなんかじゃない怪しい想像上の動物なので、中国人はあえて訳さなかったらしい。うお座も占星術の絵を見ると必ず2匹が逆向きに並べてあるので「双魚」。いて座だってケンタウルスみたいなやつ(インドとギリシャとどっちが先かは知らない)だから普通名詞の射手では失礼だ、というわけで「人馬」なんじゃないのかな。

完全に占いになってしまった。(汗)

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最後に、インドネシア語(マレーシア語)の曜名。語源はアラビア語。

下は、インドネシア語 日本語 アラビア語の意味 アラビア語の読み方(正確じゃないからね) アラビア語 という形のリストだ。

Ahad 日曜 1 わーひどぅん واحِدٌ
Senin 月曜 2 いすなーん اِثْنان
Selasa 火曜 3 さらーさ ثَلاث
Rabu 水曜 4 あるばっあ أرْبَع
Kamis 木曜 5 かむす غَمْسٌ
Jumat 金曜 (礼拝のために) 集まる じゅまっと جُمْعة
Sabtu 土曜 7 さぶっあとぅ سَبْعةُ

曜日であることをはっきり示したいなら、「一日」をあらわす hari の修飾語として用いればよいのは、タイ語と同じ。また、日曜日は hari Minggu という別の語の方が普通だが、これだけはアラビア語とは関係ない。

何人かのインドネシア人に訊いてみたけど、語源がアラビア語の数詞だなんて誰も知らなかった。Sabtu の語源のアラビア語 (たぶんヘブライ語も?) の単語 سَبْعةُ は、英語の sabbatical の語源でもある。どこかの世界を作った神様は7日目はサボったんじゃなかったっけ。

でも、インドネシア語の曜名を覚えるのにまずアラビア語からというのは、たぶん遠回りしすぎ。

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Comments 5

さんのコメント...

インドネシア語の語源にお詳しいですね。

私もインドネシア語やマレー語の語源に詳しくなりたいのですが、どうすれば良いでしょうか?

参考図書などを教えていただければ嬉しいです。

さんのコメント...

インドネシア語の辞書は、たぶん宗教とか言語で揉めるのを避けるために、どれも語源が書かれていません。☆

ただ、大昔にヒンディと一緒に伝わったインド起源の借用語と、その後イスラムと一緒に伝わったアラビア起源の借用語が膨大にあるのは確かです(最近でも、ブラジャー = BH に代表されるオランダ語起源から、警察 = polisi のような英語起源に変化して借用語は増え続けている)。

英語起源のインドネシア語はわかりますよね?それは貴方が英語を知っているから。

だから、インド系の言語と、アラビア語系の言語を何か知っていないと。☆に書いた事情なので、インドネシアでそういう研究は期待できませんし、参考文献はみたことがありません。

このエントリに書いた曜日名は、憶測ではなく、確実なやつですが、書いてある本ってあるのかなあ。。。

ごめんなさい。何にも役に立ちませんでした。

さんのコメント...

2冊買って来てくださいますか?(笑)

さんのコメント...

ネットで購入できないか調べたところ、
out of print(絶版)の記述が・・・。

現地で見つけたら、2冊といわず全部買ってきます!?

さんのコメント...

ごめんなさい。今日、匿名さんのコメントを読み返していたら、個人情報が書いてあったので削除しました。