2009-02-17

忘れて衝突しない


実数には解を持たない2次方程式がある。 i という元の追加で解を持たない2次方程式は無くなり、複素数が自然に定まる --- ★


それはさておき、2009年1月13日のエントリで、2隻の帆船が衝突しそうな場合にどちらが針路を譲るか、の話題を書いた。

そこでの話を要約すると:右利きが多い

この事実だけで全てが決まっていた。忘れても考えて導き出せる。そういう類のことは積極的に忘れることにしている。忘却力なら人には負けない。(笑)

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ダイビングボート(帆船ではなくエンジンで動いている「動力船」)に乗っているときに、人に訊かれたことがある。
「いとーさん、あの船とこっち、どっち優先でしたっけ?」
と。

そのときはぐちゃぐちゃ言ってもしょうがないので、
「相手の赤灯の舷が見えてたら譲る。緑灯の舷だったら針路そのまま変えちゃだめ」
と簡単にお答え。

実は、原因と結果が逆。赤と緑がそう見えるように、左舷に赤灯、右舷に緑灯の設置が義務付けられたのだ(ついでに、後ろは白)。規則のほうが先、灯色は後。

蛇足:港の浮標も、入り船に対し障害物のない針路を示す指向灯を陸に置くとしたら…で 赤/緑 の側が決められた。

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歴史を辿ると。帆船の時代の後、動力船が登場した。「動力船はつねに帆船に針路を譲る」:この規則は動きやすいほうが譲るというシーマンシップとして当然だ。問題は、2隻の動力船が衝突しそうなときどちらが針路を譲るか、を定める必要が生じたことだ。説明は、いちおう、3つの場合に分ける。

場合1。正面衝突や追突ではない衝突のおそれがある場合:あたかも2隻がともに風の吹いてくる方位にある目的地へ向かって tack しながら進みつつある帆船 (Close Hauled) と考える。ぶつかりそうな時、どちらが譲るだろうか。左舷開き(つまり相手を右に見る船)が譲ることになる。実は、この類推として、2隻の動力船の 避航/保持 が定められた。と、昔、古い船乗りが言っていた。ちなみに、保持船の針路保持義務とか避航船の横切り禁止というもの自体も、帆船のこの場合に淵源がある。この場合の2隻の帆船は性能ぎりぎりで走っているのだから「ぜひとも針路は保持したい」し「相手を横切ろうにももうこれ以上、風上へは変針できない」のだ。それを動力船へ拡張解釈。

場合2。正面衝突のおそれがある場合:正面ではないが微妙に右の正面から相手が来るとする。場合1を適用すると、避けなければならないことが分かる。しかし、自分の針路を左に曲げれば相手の針路を横切ってしまう。だから、右へ避ける。これは必然だ。ここで「微妙に右の正面から相手が来る」というのをじわじわと「真正面から相手が来る」へ近づけてみて、そのたびに同じ話を考えてみる。どの場合も「右へ避ける」という結論になる。というわけで、ほんとうに真正面で衝突のおそれがある場合も、右へ避けるべし、と定められた。動力船は右側通行、ってのも同じ理屈。

場合3。追突のおそれがある場合:真後ろではないが微妙に左から追突しそうに…もう説明する必要ないよね。オカマ掘りそうなほうが右へ避ける。同じで、追い越すときは右から。

上のストーリーをまとめれば、

帆船の航行空間には境界 (Close Hauled) がある。動力船という元の追加で境界は無くなり、拡大航行空間が自然に定まる

ということだ()。素晴らしい。動力船に関する規則を作ったのは、まぎれもなく一流の数学者だ。

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というわけで、この件に関して、おぼえるべきことはただの一つもない。

右利きが多い

終了。ほうら、もうぜんぶ忘れた。

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