2008-12-30

Sapphirinid copepods



(A copepod of the genera Sapphirina or Copilia, TL 5mm, D -5m, Is. Ani, Ogasawara, Japan)

かなり昔、私自身が誰かに質問したことがある。「潮通しのいい場所を潜ってるとき中層によく見る、5mm くらいの楕円形で青く光ってる物体は何?」と。そのときの答えは「ウミホタルの仲間」だったので、ずっとそう信じていた。

父島滞在中に、ダイビングサービスの O.M. さんと、まさにこの「楕円形で青く光ってる物体」の話題になった。彼は17年間のガイド業でたった1度だけ質問されたが、答えられなかったそうだ。「M さんならきっと教えてくれると思ったのに、なーんだ、やっぱりわかんないんだ」と言われてくやしかった、とも。

17年に1度の質問者と私は同一人物ではない。

本当に「ウミホタルの仲間」で正しいのか、調べてみた。

ネットで検索するにもキーワードが難しい。いろいろ試行錯誤の結果、2つの単語 copepod iridescence で、ある大学の研究テーマらしきものがヒット。1番目の研究テーマ紹介に、まさにこの「楕円形で青く光ってる物体」の写真がある。表面の電子顕微鏡写真やイラスト、説明文も興味深い:ハニカム構造が層状になり金属光沢がでる、光に対し負の走向性がある、光るのはオスでメスは光らない代わりに目が大きい、など。

Copepoda は「カイアシ亜綱」である。同じ甲殻亜門の中でも、エビやカニのような十脚目とは "綱" レベルで異なる遠いグループだ。普通にミジンコと言っている生物は淡水産や海水産のいろんな種を指すが、そのうちのケンミジンコが「カイアシ」に属する。カイアシは、脚 (pod) が櫂 (cope) である、に由来するので、漢字で貝足とか介足と書くのは的外れ。実際、漢字で書けば「橈脚」である。音読みは「どうきゃく」。

[蛇足:この「橈」の字義は「舟のオールあるいは舵」で「櫂」とほぼ同じ。しかし、この字の音読みが大問題。「とう」や「じょう」、あげくの果てには「ぎょう」という誤読が定着していて、正しい読み「どう」では全然通じない。ヒトの前腕の母指側にあり、尺骨と組になってるのは橈骨だが、「とうこつ」と読まれる。このような、誤りが定着してしまった例は他にもある。「"しょうこうひんあつかいされた" といごんをのこしびゃくえのてんしがじゅすいじさつ」はこの記事の最後の一文 (*) の正しい読みだけどわけが分からない。]

けっきょく、「カイアシの1種」が正解。「ウミホタルの仲間」ではおおざっぱ過ぎる("綱" レベルでは確かに同じ仲間とも言えるが、ウミホタルは貝虫亜綱 (Ostracoda) の種なので "亜綱" レベルで異なる。ウミホタルを「フジツボの仲間」と言ったらアバウトすぎでしょ?)。もし、微妙に嘘混入で誰にでもわかるように答えようとするなら「ミジンコの仲間」が許容範囲だろう。きわめて正確に答えるなら「Sapphirina 属か Copilia 属の1種」だが、こんな答えが返って来たら質問者は怒るかも。

私は、謎が解けてすっきり。

ちなみに、検索に使用した2つのキーワードのもう1つ iridescence は、生物学用語で「虹色」あるいは「構造色」(参照:この blog の "Iris" という記事)。光の回折によって出る色で、 CD の裏面とか、アゲハチョウの翅、アワビの貝殻の裏側、美しい黒髪のようなメタリックな色合いのこと。

アゲハチョウやアワビや美しい黒髪を標本(!?)にしても色は褪せないのと同様、この「楕円形で青く光ってる生物」は死んでも色褪せない。って、殺さないでね。

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(*) "消耗品扱いされた" と遺言を残し白衣の天使が入水自殺

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