2009-02-12

R&Avagraha



前回の記事を書いたおかげで、久しぶりにタイ語学習意欲が高まった。前から気になっていたことを今回は書いてしまおう。

タイ語の文字 ร は、『頭で r、尾で n の音』をつねに表すわけではなく、他の音を表すこともある。タイ文字の読み方を知っている人に例をあげる必要はないだろう。わりと初歩的な事実だ。

今回の記事で言いたいことはこれだ:文字 ร は avagraha である

「r という音を持つ」のは、この帰結にすぎない。他の音を表すことがあるのは avagraha だから当然で、それが不規則な例外に見えるのは原因と結果を逆に見ているからだ。

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[未来へのリンク:2009年2月18日のエントリに、文字 ร のもう1つの例外に関する話題を書きました。]

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サンスクリット語の記述に使われるデーヴァナーガリー文字の ऽ を avagraha という(現代ヒンディーにもこの文字はある)。私の主観だが、字の絵柄までそっくりそのままだ。

サンスクリット語の avagraha は(以下の情報の出典:Wikipedia 英語版)、2つの語を連結して複合語を作る際、頭が母音で始まる後のほうの語のその母音が音便で1つ省略されたことを複合語上に残しておくための区切り記号である。2つの長母音が1つの長母音にまとまる場合にはしばしば 2 つの avagraha が置かれる。だそうだ。

"英語でも it is を it's と発音し記述するが、ここにある ' (アポストロフィ)が avagraha に相当する"、ってのも、 Wikipedia の説明だけど、これはいくらなんでもひどい間違い。avagraha は「後の1個は省略されたが、前にはある」ことを保証するための記号なのだから。

幸いなことに "現代ヒンディーでは日本語の長音符「ー」と同じ役割の記号に変化している" という正しい記述がやはり Wikipedia に見える。微妙に歪むのをおそれず簡単に言うと、
「ここの発音は書くのを省略したからね」
という記号が
「省略したけどここはながーく発音してね」
の意味に変化したのだ。

タイ文字ができた時点で、すでに同じような変化が起こっていた(その証拠は、実は、タイ語の母音符号系の中に隠されている)。と同時に、諸般の理由により、 avagraha を 「r という音を持つ字」に流用するのも妥当だった。

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古の哲人には哲人の都合があったのだ:タイ語の文字 ร は、設計上は規則的な読み方しかあり得ないのだけれども、規則を知らぬ目にはでたらめな読みにしか見えない、そういうことなのだ。哲人に対し敬意を払おう。手もとの参考書や辞書を何冊か見たけど、どれも「この単語の文字 ร は例外的な読みをする」とその場限りの単純処理をしている。残念だなあ。

封印された古い規則を1つ見逃せば、説明されない新しい例外がたくさん現れる。

とりあえず、今回はこれだけ。この続きは永遠に無いかもしれないけど、私は ร を見るたびにそれを凝視している。

そもそも今回の記事。なんだか私が
「その詳しいことは書くのを省略したからね」
という雰囲気を全開にしているが、それは
「省略したけど本当のことはよーく分かってる」
からじゃないかな。(笑)

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写真は、Matichon Dictionary of the Thai Language の該当ページ。
ISBN978-974-323-264-0

2/14 17:52 追記:気が変わった。誰のためでもなく自分のためにメモを残しておくことにする。下のわけのわからない(?)のがそれ。最後の人名は、チェンマイでの私のタイ語会話の先生の名前でーす。長いときは一日4時間、マンツーマンでした。(汗)

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