2009-05-21

そんな説明じゃ(誰も)わかんない

この blog の2009-04-17の記事「仁義とマナー」で、「説明できる」と「説明で納得できる」とは全く別のことだ、というようなネタを書いた。今回はその双対。前回は説明される側の理解能力で、今回は説明する側の噛み砕き能力に係る話だ。

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3日前に、どういうわけか、3時間ほど『熱力学』の講義を受けるはめに陥っていた。

私はもともと物理系の人なので、大学1年次(当時は教養課程があったので、理系の全体共通カリキュラム)で『物理化学』、専門課程進学後の2~3年次で『熱学』と『統計力学』(両方とも『演習』付き)と、違う観点から3回もみっちり習ったことがある。習ったから分かっているとは限らないのだが、私の場合、けっこう大好きな科目だった。とくに『熱学演習』は4週に1回、午後にエンドレス(出された問題が消化されるまで終わらない)だった。誰も黒板の前に出て問題を解かないので、私がほとんど全部の問題を解いていた: 1問終わると、担当の助手の方が「次やる人~?」と呼びかけるのだが、誰も手をあげないのだ。で、助手の方が私のところへきて、ノートを覗き込んで「あ、やってますね。じゃあ、きみ、黒板で説明して」となっていたのだ。(笑)

というわけで、他人がどういうふうに『熱力学』の基礎を説明するのかがすごく気になった。講師はT工業大学の化学工学科の教授だ。

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で、教授。説明ひどすぎますよ

内部エネルギー、エンタルピー、 Gibbs と Helmholtz などの自由エネルギーの説明は、少なくとも、「示強性」と「示量性」の双対な状態量という概念(☆)とか、Legendre 変換(★)とかをそこはかとなく匂わせないといけないと思う。しかし、教授の説明では、式を羅列し「覚えろ」というだけだった。覚えることなんか一つもないんだけど。。。

何が定義なのか、何が導出されるものなのか。あるいは、独立変数が何であって、どういう状況(たとえば、定容とか定圧とか定温とか断熱可逆とか)で便利なのかという説明も全くなされなかった。

この教授の講義は「大学の理工系卒業程度の知識」を仮定した上でだったから、という言い訳は絶対にさせない。あんな説明では、知ってることの復習にすらならなかった。だって、「覚えろ」という他に情報が無いのだもの。。。

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「自分が深く理解した上で噛み砕いて人に与える」のと「噛み砕かれたものを丸暗記しそのまま人に与える」はぜんぜん違う:後者は分かってなくてもできる簡単なこと。世の中には、とんでもない一方向性があるのだ。

日本の化学工学の将来をちょっと憂えてしまった3時間だった。(笑)

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☆: 温度は「示強」でその双対の「示量」がエントロピー。圧力と体積、化学ポテンシャルと粒子数もそう。

★おまけ: ただで読める、ネット上の解説としては、 Wikipedia 英語版の Legendre Transformation の説明がなかなか良い(ただし、日本語版の同項目は今日現在の版を見る限り、まだ全くお勧めできない)。
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